鏡で口の中を見たとき、歯と歯ぐきの境目に白っぽい塊がこびりついているのに気づいたことはありませんか。それは歯石かもしれません。「自分で取れないかな」と思って爪楊枝やスケーラーで取ろうとした経験がある方もいるのではないでしょうか。
ネット通販では歯石取り用のスケーラーが手軽に購入でき、SNSでもセルフ歯石取りの動画が多く投稿されています。しかし、歯科の専門家の多くは、自分で歯石を取ることを推奨していません。
この記事では、歯石とは何か、なぜ自分で取るのが危険なのか、正しい対処法はどうすればよいのかを詳しく解説します。歯石が気になっている方は、自己流のケアで歯や歯ぐきを傷つけてしまう前に、ぜひ読んでみてください。
そもそも歯石とは?歯垢との違い
歯石と歯垢(プラーク)は混同されがちですが、まったく別のものです。
歯垢(プラーク)とは
歯垢は、食べかすをエサにして繁殖した細菌の塊です。歯の表面にネバネバとした膜のように付着しており、歯ブラシで除去することができます。歯垢1mgのなかには約1億個もの細菌が含まれていると言われています。
歯石とは
歯石は、歯垢が唾液中のカルシウムやリン酸塩と結合して石灰化(硬化)したものです。歯垢が歯石になるまでには約2〜3日かかるとされています。一度歯石になってしまうと、歯ブラシでは除去できません。
歯石の種類
歯石には2種類あります。
歯肉縁上歯石(しにくえんじょうしせき)
歯ぐきの上に形成される歯石で、白〜黄白色をしています。目で確認しやすく、主に下の前歯の裏側や上の奥歯の外側(唾液腺の開口部付近)にできやすいのが特徴です。
歯肉縁下歯石(しにくえんかしせき)
歯周ポケットの中(歯ぐきの下)に形成される歯石で、黒褐色をしています。血液の成分を含んでいるため硬く、除去が困難です。歯周病の進行と密接に関係しています。
歯石になる前の歯垢の段階で落とすには、毎日のブラッシングが基本です。歯と歯ぐきの境目に毛先が届きやすい歯ブラシを選んでおくと、日々のケアがしやすくなります。

自分で歯石を取るのが危険な理由
市販のスケーラーや歯石取りグッズを使ったセルフケアには、さまざまなリスクがあります。
歯ぐきを傷つけるリスク
歯科医師や歯科衛生士は、何年もの訓練を経てスケーリング技術を身につけています。素人がスケーラーを使うと、歯石だけでなく歯ぐきを傷つけてしまう可能性が非常に高いです。歯ぐきの傷は細菌感染の入り口となり、かえって歯周病を悪化させることがあります。
歯のエナメル質を傷つけるリスク
スケーラーの使い方を誤ると、歯石と一緒にエナメル質を削ってしまうことがあります。エナメル質は一度失われると再生しないため、取り返しのつかないダメージを負うリスクがあります。
歯石を完全に除去できない
セルフケアで取れるのは、目に見える歯肉縁上歯石の表面部分だけです。歯石の根元部分や歯周ポケット内の歯肉縁下歯石は、自分では絶対に取ることができません。表面だけ取って「きれいになった」と思い込んでしまうと、見えない場所で歯周病が進行し続けるリスクがあります。
感染のリスク
市販のスケーラーは滅菌処理が不十分な場合があり、傷ついた歯ぐきから細菌が侵入して感染症を起こす可能性があります。歯科医院では器具の滅菌管理が徹底されていますが、家庭では同レベルの衛生管理は困難です。
SNSやYouTubeで「セルフ歯石取り」の動画が多く投稿されていますが、歯科の専門家の多くはこれらの行為を推奨していません。「自分でやって問題なかった」という体験談があっても、見えない部分でダメージが蓄積している可能性があります。歯石の除去は必ず歯科医院で行いましょう。自宅でできる口腔ケアについてはフロスの使い方を以下の記事で紹介しています。



歯科医院での歯石除去(スケーリング)の流れ
歯科医院での歯石除去はどのように行われるのか、具体的な流れを知っておくと安心して受診できます。
ステップ1:口腔内の検査
まず、歯周ポケットの深さを測定する歯周組織検査(プロービング)を行います。歯石の付着状況や歯周病の進行度を把握するための重要な検査です。レントゲン撮影を行うこともあります。
ステップ2:歯肉縁上歯石の除去(スケーリング)
超音波スケーラーや手用スケーラーを使って、歯ぐきより上の歯石を除去します。超音波スケーラーは微細な振動で歯石を粉砕する器具で、短時間で効率的に歯石を除去できます。
ステップ3:歯肉縁下歯石の除去(SRP)
歯周ポケットが深い場合は、SRP(スケーリング&ルートプレーニング)という処置を行います。これは歯周ポケットの中の歯石を除去し、さらに歯の根の表面を滑沢に仕上げる処置です。SRPは歯周病治療の基本的な処置であり、局所麻酔を使って行うことが多いです。
ステップ4:研磨
歯石除去後は、歯の表面を研磨して滑らかに仕上げます。表面がツルツルになることで、新たな歯垢や歯石が付きにくくなります。
ステップ5:ブラッシング指導
歯石が再び溜まらないよう、正しいブラッシング方法の指導を受けます。自分の磨き癖や磨き残しが多い箇所を教えてもらい、日々のケアに活かしましょう。
歯石除去の費用はどのくらい?
歯科医院での歯石除去にかかる費用を確認しておきましょう。
・初診料+検査+歯肉縁上歯石除去:約3,000円〜4,000円
・再診+歯肉縁上歯石除去:約1,500円〜2,500円
・SRP(歯肉縁下歯石除去):1ブロックあたり約2,000円〜3,000円
・レントゲン撮影(追加の場合):約1,000円〜2,000円
※保険適用(歯周病治療として)の場合の金額です
保険適用の場合、全体の歯石除去は複数回に分けて行うのが一般的です。上下を2回に分ける場合や、6ブロックに分けてSRPを行う場合があり、トータルで2〜6回程度の通院が必要になることがあります。
歯石がつきやすい人の特徴
歯石がつきやすい人とそうでない人がいますが、以下のような特徴がある方は歯石が溜まりやすい傾向にあります。
唾液の性質
唾液のカルシウム濃度が高い方は、歯垢が石灰化しやすく歯石が溜まりやすいです。これは体質的な要因のため、歯磨きだけでは完全に防げない場合があります。
歯磨きの頻度や精度
歯磨きの回数が少ない方や、磨き残しが多い方は当然ながら歯石がつきやすくなります。特に下の前歯の裏側と上の奥歯の外側は唾液腺の開口部に近いため、歯石が最もつきやすい場所です。
口呼吸
口呼吸をしていると口腔内が乾燥し、唾液の自浄作用が低下するため、歯垢が溜まりやすく歯石もできやすくなります。
喫煙
タバコのヤニは歯の表面をザラザラにし、歯垢が付着しやすい環境を作ります。喫煙者は非喫煙者に比べて歯石が溜まりやすい傾向があります。


歯石を予防するためにできること
歯石は一度ついてしまうと自分では取れませんが、歯石になる前の歯垢の段階で除去すれば予防することができます。
丁寧な歯磨きを習慣にする
歯垢が歯石になるまでには約2〜3日かかります。つまり、毎日しっかりと歯磨きをして歯垢を取り除いていれば、歯石の形成を大幅に抑えることができるのです。特に歯と歯ぐきの境目を意識して、バス法やスクラッビング法で丁寧に磨きましょう。
デンタルフロス・歯間ブラシを使う
歯ブラシだけでは歯と歯の間の歯垢は除去しきれません。デンタルフロスや歯間ブラシを毎日使うことで、歯間部の歯石形成を予防できます。
歯石予防成分配合の歯磨き粉を使う
ピロリン酸ナトリウムなどの歯石予防成分が配合された歯磨き粉を使うと、歯垢の石灰化を抑制する効果が期待できます。
定期的な歯科検診・クリーニング
どんなに丁寧に歯磨きをしていても、完全に歯垢を除去することは難しいです。3〜6ヶ月に1回の定期検診とプロによるクリーニングで、取りきれなかった歯垢や形成され始めた歯石を早期に除去しましょう。
歯石を放置するとどうなる?
「歯石があっても痛くないから大丈夫」と放置するのは非常に危険です。歯石を放置すると、以下のようなリスクがあります。
歯周病の進行
歯石の表面はザラザラしており、新たな歯垢が付着しやすくなります。歯石と歯垢が歯周ポケットの中で増え続けると、歯周病が進行し、最終的には歯を支える骨(歯槽骨)が溶けて歯がグラグラになります。
口臭の悪化
歯石に付着した細菌が悪臭を発するガスを産生するため、口臭が強くなります。
虫歯のリスク増加
歯石の周囲に歯垢が溜まりやすくなるため、虫歯のリスクも高まります。
見た目の悪化
歯石が大きくなると見た目にも影響します。特に前歯に歯石がつくと、笑ったときに目立つため、対人関係にも影響を及ぼすことがあります。
参考リンク:日本臨床歯周病学会
参考リンク:日本歯科医師会 テーマパーク8020


よくある質問(Q&A)
参考リンク:厚生労働省 e-ヘルスネット(現在は厚生労働省 健康日本21アクション支援システムに統合)


