「朝起きると顎がだるい」「家族に歯ぎしりを指摘された」「歯がすり減っていると歯科で言われた」——こうしたきっかけで、歯ぎしり用のマウスピース(ナイトガード)を検討する方は少なくありません。
気になるのは費用です。市販品なら数千円で買えるのに、歯科で作るといくらかかるのか。そもそも健康保険は使えるのか。この部分がはっきりしないまま、なんとなく先延ばしにしている方も多いのではないでしょうか。
結論としては、歯科医師が診断のうえで必要と判断した場合、ナイトガードは保険で作製できます。ただし条件があり、すべてのケースで保険が使えるわけではありません。
この記事では、歯ぎしり用マウスピースの保険適用の条件、費用の目安、自費との違い、市販品との使い分け、作製から使い始めるまでの流れを整理します。実際の適用の可否は歯科医師の診断によって決まるため、最終的にはかかりつけの歯科医院でご確認ください。

ナイトガードとは何をするものか
ナイトガードは、就寝中に上または下の歯列に装着する樹脂製の装置です。歯ぎしりや食いしばりそのものを止めるものではなく、歯と歯が直接ぶつかるのを防ぎ、力を分散させるのが役割です。
期待される働き
- 歯のすり減り(咬耗)や、かぶせ物の破損を防ぐクッションになる
- 歯を支える組織にかかる負担を分散させる
- 顎まわりの筋肉への負担を軽くする目的で使われることがある
- 装着することで、噛みしめている自覚が生まれることもある
注意しておきたいのは、装置が歯ぎしりの原因を取り除くわけではないという点です。歯ぎしりにはストレス、睡眠の状態、噛み合わせ、生活習慣など複数の要因が関わるとされており、ナイトガードは被害を抑える役割と理解しておくのが実際に近いといえます。
装置を使い始める場合は、毎晩清潔に保つためのケア用品もあわせて用意しておくと続けやすくなります。
歯ぎしりには複数のタイプがある
ひとくちに歯ぎしりといっても、現れ方は同じではありません。歯科では大きく次のように整理されます。
| タイプ | 特徴 | 気づかれ方 |
|---|---|---|
| グラインディング | 上下の歯を横にすり合わせる | 音が出るため家族に指摘されやすい |
| クレンチング | 強く噛みしめる。音は出にくい | 朝の顎のだるさで気づくことが多い |
| タッピング | 歯を小刻みにカチカチ打ち合わせる | 比較的少ないとされる |
音が出ないクレンチングは自覚も指摘もされにくく、歯科の検診で咬耗を指摘されて初めて気づくケースが目立ちます。「家族に何も言われないから自分は歯ぎしりをしていない」とは言い切れない、というのはここに理由があります。
保険が使える条件
ナイトガードが保険適用になるのは、歯科医師が診察と検査を行い、治療上の必要性を認めた場合です。おおまかには次のような診断が前提になります。
ブラキシズム(歯ぎしり・食いしばり)と診断された場合
歯の咬耗、歯にできた縦の亀裂、頬の内側の粘膜に残る歯の圧痕、舌の縁のギザギザした跡など、力がかかっている所見が確認されるケースです。
顎関節症と診断された場合
口を開け閉めしたときの関節の音、顎の痛み、口が開けにくいといった症状があり、治療の一環として装置が必要と判断されるケースです。顎関節症の一般向けの解説は、日本顎関節学会「一般の方へ」のページにまとまっています。
咬合性外傷と診断された場合
特定の歯に強い力が集中し、歯がぐらついたり歯ぐきが下がったりしている状態への対応として作られるケースです。
「なんとなく歯ぎしりが気になる」という自己申告だけでは、保険の対象にならないことがあります。保険診療は診断に基づいて行われるため、まずは診察と検査を受けることが前提です。また、スポーツ用のマウスガードや、いびき・睡眠時無呼吸への装置は別の扱いになります。
費用の目安
金額は医院や地域、検査の内容によって変わります。以下は2026年8月時点で一般に案内されることの多い範囲で、あくまで目安です。実際の金額は受診先でご確認ください。
| 区分 | 費用の目安(自己負担) | 特徴 |
|---|---|---|
| 保険適用(3割負担) | おおむね3,000〜5,000円程度 | 装置の作製費用。診察・検査の費用は別に加わる |
| 自費 | おおむね15,000〜40,000円程度 | 素材や作り方の選択肢が広い |
| 市販品 | おおむね1,000〜5,000円程度 | お湯で軟化させて自分で成形するタイプが中心 |
保険で作る場合、初診料・再診料、歯周組織の検査、レントゲンなどが加わることがあります。そのため、装置の費用だけでなく、その日の窓口負担の合計で考えておくと実際とのズレが小さくなります。具体的な金額は歯科医院によって異なるため、受診時に確認してください。
作り直しには制限がある
保険で作製したナイトガードには、次に保険で作り直せるまでの期間が定められています。歯科では「6か月ルール」と呼ばれ、前回の作製からおおむね半年を空ける必要があると案内されることが一般的です。破損や紛失で早く作り直したい場合、条件によっては自費になることがあります。壊さない・なくさないための管理が、結果的に費用を左右します。実際の取り扱いは症状や破損の状況によって判断が分かれるため、担当の歯科医院に確認してください。

自費のナイトガードは何が違うのか
保険と自費で「守る」という目的は変わりません。違いが出るのは主に素材と作り方です。
素材のかたさ
やわらかい素材は装着感が穏やかで、初めての方でも慣れやすいとされています。一方、かたい素材はすり減りにくく、噛み合わせの調整をしやすいという特徴があります。歯ぎしりの強さや目的によって、歯科医師が選択します。
厚みと精度
自費では、より薄く作る、噛み合わせを細かく調整するといった対応がしやすくなります。装着したときの違和感が気になりやすい方には選択肢になります。
どちらを選ぶか
初めて使う方は、まず保険で作って使用感を確かめるという進め方が現実的です。使い続けるなかで、厚みや装着感に不満が出てきた段階で自費を検討しても遅くはありません。歯ぎしりについての一般的な情報は、日本歯科医師会の公式サイトでも案内されています。

市販のマウスピースとの違い
ドラッグストアや通販では、お湯で軟化させて自分の歯型に合わせるボイル&バイトタイプのマウスピースが売られています。手軽さは大きな利点ですが、性質は歯科で作るものと異なります。
| 比較項目 | 歯科で作製 | 市販品 |
|---|---|---|
| 適合 | 型取りをして個別に作製 | 自分で成形するため個人差が出る |
| 噛み合わせの調整 | 装着時に歯科医師が調整 | 調整は基本的にできない |
| 診断 | 原因や状態の確認を伴う | 診断は行われない |
| 入手のしやすさ | 受診と数回の通院が必要 | その日に購入できる |
適合が合わないまま長期間使うと、噛み合わせに影響が出る可能性が指摘されています。継続して使うつもりなら、一度は歯科医院で診てもらうほうが安心です。市販品は、出張や旅行の予備として持っておくといった使い方が現実的でしょう。
作製から使い始めるまでの流れ
1. 受診・診察
症状の経過を伝え、歯や粘膜の状態を診てもらいます。歯ぎしりを指摘された経緯、朝の顎のだるさ、頭の重さなど、気になることは伝えておくと診断の材料になります。
2. 検査
レントゲン撮影や歯周組織の検査を行い、力がかかっている場所や歯を支える状態を確認します。
3. 型取り
印象材で歯型を取ります。スキャナーで口の中を読み取る方法を導入している医院もあります。型取りにかかる時間は数分程度です。
4. 装着・調整
できあがった装置を装着し、当たりが強い部分を削って調整します。この調整が装置の使いやすさを大きく左右します。違和感があれば遠慮せず伝えてください。
5. 使用開始と経過観察
就寝時に装着して使い始めます。最初は違和感で眠りにくいことがありますが、多くの方は数日から2週間程度で慣れていくといわれています。合わない場合は再調整してもらいます。
- 初診:診察・検査・型取りで1回
- 装着:完成した装置の装着と調整で1回
- その後:使用感の確認や調整で1〜2回
- 定期検診のたびに、すり減りや破損をチェックしてもらう
お手入れと保管
ナイトガードは毎晩口に入れるものなので、清潔に保つ必要があります。とはいえ、寝る前の疲れているタイミングで丁寧に洗うのは、正直なところ面倒です。負担を減らす方法を最初に決めておくと続きます。
毎日のお手入れ
外したら流水で洗い、やわらかいマウスピース専用ブラシか、使い古した歯ブラシで軽くこすります。歯みがき粉は研磨剤で表面に細かい傷をつけることがあるため、使わないのが一般的です。
週に数回の洗浄
においやぬめりが気になる場合は、マウスピース用の洗浄剤(つけおきタイプの発泡錠)を使う方法があります。入れ歯とマウスピースの両方に使える製品も流通しています。使用方法と時間は製品の表示に従ってください。
保管
乾かしてから通気穴のあるマウスピースケースに入れます。熱で変形するため、熱湯での消毒、直射日光の当たる場所、車内への放置は避けてください。
装置に穴があいた、割れた、ゆるくなって外れやすくなった、装着すると特定の歯だけが痛む——こうした場合は使用を続けず、歯科医院で確認してもらってください。合わない装置を使い続けると、かえって負担がかかることがあります。

装置以外にできること
ナイトガードは歯を守る手段であって、歯ぎしりの背景そのものには届きません。あわせて生活面を見直す方が多くいます。
- 日中の食いしばりに気づいたら、上下の歯を離す(安静時は本来触れていない)
- パソコン作業中に無意識で噛みしめていないか、付箋などで意識づけをする
- 就寝前のカフェイン・アルコール・喫煙を控える
- 寝る前にスマートフォンを見る時間を短くする
- 枕の高さが顎に影響していないか見直す
- 顎や首まわりのこわばりを感じたら、温めて休ませる
日中の食いしばりは自覚が難しく、気づいたときには顎がこわばっているということが起こりがちです。デスクの目に入る場所に「歯を離す」と書いた付箋を貼る方法は、費用がかからず取り組みやすい工夫として知られています。

よくある質問
Q. 保険で作りたいのですが、断られることはありますか
診断上、必要性が認められない場合は自費になることがあります。まずは診察を受け、現在の状態を確認してもらってください。所見があれば保険で作れるケースが多くあります。
Q. 上下どちらに装着しますか
一般的には上顎に装着することが多いですが、状態によって下顎に作ることもあります。装着感や噛み合わせを踏まえて歯科医師が判断します。
Q. 毎晩つけないといけませんか
歯を守る目的なので、原則として就寝時は毎晩使用します。ただし、使い始めで眠れないほどの違和感がある場合は、装着時間を少しずつ延ばす進め方をすすめられることもあります。担当の歯科医師に相談してください。
Q. どのくらい持ちますか
歯ぎしりの強さや素材で変わります。数か月で穴があく方もいれば、数年使える方もいます。定期検診のときに一緒に見てもらうと、傷みに早く気づけます。
Q. 矯正中でも作れますか
装置が入っている間は、通常のナイトガードを作れないことがあります。矯正の担当医と相談してください。矯正後のリテーナーが、結果として夜間の負担を受け止めるケースもあります。
Q. 子どもの歯ぎしりにも必要ですか
成長期のお子さんの歯ぎしりは、生え変わりに伴って見られることがあり、経過を見ることが多いとされています。歯の摩耗が強い場合など、対応が必要かどうかは小児歯科で相談してください。
Q. 装着すると顎が痛くなりました
調整が合っていない可能性があります。使用を中断して、早めに歯科医院で見てもらってください。痛みを我慢して使い続けるのは避けたほうがよい対応です。
Q. いびき対策のマウスピースと同じものですか
別のものです。いびきや睡眠時無呼吸に用いる装置は下顎の位置を前方に保つ設計で、目的も適用の条件も異なります。歯ぎしり用のナイトガードとは分けて考えてください。
まとめ
- 歯科医師の診断があれば、ナイトガードは保険で作製できる
- 保険適用時の自己負担はおおむね3,000〜5,000円程度が目安(診察・検査の費用は別。医院により異なる)
- 自費はおおむね15,000〜40,000円程度で、素材や厚みの選択肢が広い
- 市販品は手軽だが、適合や調整の面で歯科の作製とは別物
- 作り直しには保険上の期間の制限(おおむね6か月)があるため、破損・紛失に注意
- お手入れは水洗いが基本。熱湯や研磨剤入りの歯みがき粉は避ける
- 装置と並行して、日中の食いしばりや生活習慣の見直しも有効とされる
歯ぎしりは自分では気づきにくく、指摘されて初めて意識する方が大半です。気になるサインがある場合は、費用の心配で先延ばしにせず、まず一度歯科医師に相談してみてください。診察を受けることで、保険で対応できるかどうかもはっきりします。


